ウクライナ戦争の悲劇的な現状は、核をもつ常任理事国の暴走を世界が止めることができない、ということだ。
プーチン政権は核で恫喝している。バイデンのアメリカは早々と非戦を宣言してしまい、欧州も恐る恐る武器援助をするまでだ。
核を持たない非常任理事国なら、国際社会は、クウェートを侵攻したイラクに対するように対応しただろう。国連で承認し、多国籍軍を作り、武力行使をする。
ところがロシアは常任理事国だから、国際的な合法性を担保する唯一の場である国連で審議することさえできない。しかもその政府や軍は、国際社会の最高機関の地位にいながら、武力を行使する際に公が守るべき節度や自制を欠き、自由や民主主義や法の支配に慣れ、平和な文化を満喫してきた文明社会から見れば、ホラー映画か悪夢としか思えないような世界を出現させている。
その国家の地位がどのようなものであれ、国際的なルールに違反した侵攻に対し、外交で解決しないなら、正当防衛的な抵抗戦争に参加し、共に戦う(イラクのときのように、国境線の向こうに退却させるまでにとどめる)、ということは許され、そしてなすべき気がする。
しかしここでそれができないのは、核があるからではないか。あのような指導者とそれにマインドコントロールされたような国家とことをかまえるたなると、何をするか何が起こるか分からない。互いに死ぬかもしれないような喧嘩となれば、失いたくない平和と豊かさを長く積み上げてきた方がしり込みする。「テロリストには屈しない」という覚悟はできても、数千発の核兵器をもつ相手となると、話が違う。国家としての合理性をもっているのかも疑わしいし、些細な事故やミスが、取り返しのつかない連鎖反応をもたらす可能性もある。
プーチンはこれらを見すかしたうえで戦争をし、実際にそれを見透かした脅しをかけている。
国連(=戦勝連合国)体制と核兵器という、戦後世界秩序が抱えてきた構造的な問題が一挙に噴き出したといえる。この問題は、たとえ1人の独裁者が失脚したとしても(望まれている最も簡単な解決法に見えるが)、解消するわけではない。
2022.4.25
【追記】2024年 9月
2年半が経過した現在でも、基本的なことは変わらない。その後、NATOとロシアとの対立が決定的となり、代理戦争的な様相が固定化してきた。NATOは拡大し、ウクライナへの援助も、ロシアの出方を見ながら少しずつ踏み込んだものになっているが、援助疲れの気配も出てきた。プーチン・ロシアは、西側世界の経済制裁に耐えながら、世界からの孤立を巧みに避けているが、長い戦時体制に移行している。
いずれにせよ、第二次大戦後に作られた、国連を中心とする国際政治体制は機能不全となったこと、そしてそれに代わるしくみが欠落したままになっている、ということは決定的になっている。