窓辺の机

窓辺の机から世界を夢想

バーデン・パウエルの「カーニバルの朝」

ギターノート 4

 ユーチューブで、Han Eun(ハン・ウン)さんという韓国の女性ギタリストが演奏した「カーニバルの朝(Manha de Carneval)」を聴いた。素敵な演奏だ。

 この曲は、映画『黒いオルフェ』のメインテーマ曲で、映画も歴史に残る名作だが、音楽を担当したルイス・ボンファとアントニオ・カルロス・ジョビンの素晴らしい曲が随所で流れる。Han Eunさんが弾いているのは、バーデン・パウエルのアレンジによるものだ。

 B. パウエルは、60~70年代のボサノバ・ギターを代表する一人で、日本でも人気が高かった。彼はこの曲がお気に入りだったようで、いくつものアレンジで弾いていた。Han さんが弾いていたアレンジがとてもいいので、ネットで調べたら、残っている3つのアレンジのうちの1970年のものだった。すぐにダウンロードした。この曲は好きで昔から弾いていたが、これが一番いいアレンジかもしれない。
(バーデン・パウエルの大量の楽譜は、インターネットで誰でも自由に閲覧できるようになっている。息子さんが献辞をよせているが、この寛大さはラテン世界共通で、感動する。)
 彼のアレンジは簡素で弾きやすいものが多く、私のような未熟者でもいい気持にさせてくれる。この編曲も、短調でちょっともの悲しい原曲のイメージを大切にし、静かなバラード調に仕上げている。それほど難しくはないが、「歌う」ということが試される。こういう感じの曲は韓国の演奏家が上手だ。

 この映画はとてもよかった。この曲が登場するシーンだけでも、この映画を観る価値がある。カーニバルが始まる朝、眼下に湾を望む高台の窓辺、ギターを片手に恋人に捧げる歌。神話から出てきたような二人に降り注ぐ明るい朝陽と早朝の澄んだ空気に、天上の至福と不吉な悲劇の予感が漂う。

 映画音楽が素晴らしかった時代であり、スクリーンのなかに豊かな夢の世界を与えてもらった。映画とともに、ちょっと忘れかけていたバーデン・パウエルという人とその作品を思い出した。絵画や小説はそのままの姿で残る。音楽も楽譜では残っているが、何より、演奏する生身の人を通じて魂を吹き込まれ、人に伝わり、生き続けていくのだということを再認識した。

 ブラジルもコロナ禍で大変なことになった。あの映画の舞台になったファベーラはどうなったのだろう。想像すると胸が痛くなる。あの映画に出てきた愛すべき人たちは、現地のエキストラの人も多かったそうだ。この前のオリンピックがあったときたまたま紹介されたのだが、あの地域の人たちと風景は、映画で描かれていたのとあまり変わらなかったので、ちょっと感動したのを思い出した。人々は相変わらず豊かではないけれど、カーニバルを楽しみにしながら音楽や踊りを欠かさず、陽気に生きているようだった。そのようなおおらかな日常がまた戻りますよう。

〔2020年6月〕