窓辺の机

窓辺の机から世界を夢想

マヌエル・ポンセの「エストレリータ」

ギターノート 3

ラテンの人たちがアメリカ大陸にやってきて何世紀かが過ぎた。
「いく時代かがありまして、茶色い戦争もありました。」(中原中也)
何世代もの開拓のあと、高原や山あいに平和で静かな町ができた。
長い夏の一日が終わり、農夫たちは家路につく。
森と山の黒いシルエットを背景に夕暮れの濃紺の空が広がり、
小さな星が二つ、三つ、またたいている。
麓の家々に小さな灯りがともり、妻が夕餉の準備をしている。
テラスには酒もある。疲れた男たちの足も速くなる。
若者たちの姿がない。まだ片付けがあるなどと言って残り、
丘の木陰に恋人同士で肩を寄せ合って座り、この星を眺めているのだ。

マヌエル・ポンセの名曲「エストレリータ」で、メキシコのこのような風景を想像していた。
エストレリータとは、“愛らしい小さなお星さん”という感じか。
この名前をつけた曲として、これ以上ふさわしいメロディはない気がする。
この曲はもともと歌曲で、“ 空に浮かぶ星に恋人への想いを託す女性の哀しい歌 ”とのこと。

M・ポンセのギター曲は、メキシコの良き時代の香りがする。
「スケルチーノ・メヒカーノ」
「3つのメキシコ民謡:第2番」
「南のソナチネ」
 これらはどれも雰囲気がよく似ていて、ポンセとメキシコの静かで暖かい風景が浮かんでくる。
 「しおれた心(Marchita el Alma)」
 これもエストレリータの姉妹編のようないい曲だ。

エストレリータはたくさんのギタリストが弾いている。
私が持っているCDは、大萩康司さんと福田進一さんの演奏。
このどちらも素晴らしい。何度聴いても、そのつど、いろんな国のさまざまな黄昏の風景が浮かぶ。

〔2020年6月〕